自動運転・MaaS・ドローン・・・現代社会のニーズに応えるゼンリン
インターネットの普及、そして人々の活字離れを要因にした出版不況。地図製作会社おいても、口コミサイトや、グーグルマップなどの経路案内機能の台頭で、いわゆる「旅行ガイド本」の販売数が大幅に減少で、大きな影響を受けています。名の知られた企業であっても、倒産や規模の縮小が後を絶ちません。
そんな中、住宅地図製作をメインにしてきた「ゼンリン」が地図製作会社として「独り勝ち」とも言える状況が続いています。社会のニーズに迅速に応え、地図に新たな可能性と役割を見出した「ゼンリン」、近年の地図会社の流れを振り返ると共に、21世紀の地図の在り方を紹介します。
日本の地図製作業界
ひとえに地図製作会社と言っても、様々です。ゼンリンのように住宅地図や、地図情報を販売している会社もあれば、観光ガイドをメインにしている会社もあります。また、教科書や百科事典などに地図のみを卸している会社もあります。最近ではカーナビ向けに地図を開発、販売する企業も現れています。トヨタ自動車グループのトヨタマップマスターがそれにあたります。
倒産や再編が続く地図会社
2000年代以降、ガイドマップなどをメイン商材としてきた地図製作業界の縮小が続いています。「各県道路地図」、「大きな字の地図東京7000」、「東京全域バスガイド」などで知られる人文社は2013年に倒産。
道路地図「ミリオン」などで知られる東京地図出版はマイナビに吸収される形で消滅しています。
ゼンリンとしばしば比較されがちですが、「まっぷる」や「ことりっぷ」で有名な地図製作会社大手、昭文社の苦戦もしばしば伝えられており、希望退職者を募っていることがニュースにもなりました。
地図の電子化を行った企業も消滅
1990年代、パソコンの一般家庭への普及を受けて、道路地図の電子化が進みました。先述の昭文社「スーパーマップル」やアルプス社の「アトラス」などです。晩年、アルプス社ではパソコン用地図ソフトをメインに扱ってきましたが、売り上げ減少により、民事再生法手続きを申請しています。
その後、ヤフーが支援に乗り出し、子会社化を経て、現在はヤフーに吸収されています。地図製作、ことさら消費者向けをメインに展開してきた企業の競争力の低下が顕著なのがわかります。スマホひとつで、いつでもだれでも、しかも無料で地図が見れる時代に、従来の「ガイド」を売り物にする地図会社はもはや太刀打ちが出来ないというのが実情と言えそうです。
生き残る地図会社とは
2016年、新たな地図会社が設立されました。その名もダイナミックマップ基盤企画です。ゼンリンや先述のトヨタマップマスターの他、名だたる主要自動車メーカーが出資しており、全国の自動車専用道路の「高精度3次元位置情報基盤」の作成及びこれを活用したビジネスの展開を行っています。
今後は一般道への展開も計画されており、自動運転や安全支援システムの構築といった国内自動車産業界からのニーズにこたえる形で誕生した新たな地図製作会社とです。この他、紙の地図に頼らないネットに特化したMapionでお馴染みのONE COMPATH(2019年にマピオンから社名変更)があります。1997年に凸版印刷、NTT東日本、電通、ヤフーなどの出資にとり設立され、現在は凸版印刷の子会社となっています。日本で初めてネット上での地図検索サービスを開始し、乗り換え案内、ドライブルート案内など、今やグーグルマップでもお馴染みの機能ですが、日本人にフィットしたインターフェイスとなっており、普段から利用している方も多いのではないかと思います。
観光マップ、イベント情報、ニュース配信など、生活関連情報も提供している他、位置情報を活用したモバイルゲーム「ケータイ国盗り合戦」や国内の買い物情報コンテンツサービス「Shufoo!」を配信しているのもこの会社です。また、法人向けの地図ソリューションサービスも展開しており、顧客の位置や動きを用いた新たなデジタル戦略を提案しています。豊田通商が進める次世代型モビリティと組み合わせた「コミュニケーション・ロボットATOM」への地域情報や観光案内などのコンテンツの開発に協力していることも、ニュースリリースで紹介されています。ゼンリンの競合とも言える存在ではないでしょうか。
なぜ、ゼンリンは強いのか
日本の地図会社は時代の変化を受けて、淘汰されるものもあれば、はたまた業績を伸ばしている会社もあります。昨今の状況を見ていると、時代のニーズである「IoT」へ適応出来るか否かです。IoTとはInternet of thingsの略称で、日本語で言えば、身の回りの製品がインターネットに繋がるという意味です。例えば、スマホ一つでクーラーやテレビのスイッチが入るというようなものです。地図業界が関わるIoT技術は主に運輸業界での活用が期待されています。近年の新興の地図会社は、ほぼこの部分に特化しています。
その中でゼンリンは、全ての元となる建物一軒一軒単位の地図情報から、3D情報も含む電子データを自前で持っており、そしてそれら活用から提案までを一貫して1社で行えるのです。これこそが、ゼンリンの強さの秘密です。
IoT活用事例1、自動運転技術
ゼンリンのホームページに「未来社会では地図を読むのは、人間だけではない」と掲げられてる通り、今後の成長戦略の一つが、車の自動運転技術への地図情報提供です。自動車とスマートフォンを接続するだけで、おおよその経路案内には事足りてしまう時代、カーナビのさらに先を見据えているのです。1980年代から始まった電子地図事業は1990年代からナビ地図事業へと展開され、現在はさらに進んだ高精度地図への領域へ突入しています。道路上を走る車の自動運転に制度の高い地図は欠かせません。長年全国をくまなく歩き、目視によって集めた膨大なデータがここに活かされているのです。
IoT活用事例2、MaaS
皆さんは「MaaS」という言葉をご存じですか?
最近、日本でもしばしば耳にするようになったこの言葉はMobility as a Serviceの略で、自家用車以外の全ての交通手段による移動を1つのサービスとしてとらえ、シームレスに繋ぐ新しい移動の考え方です。例えばスマホのアプリから最適な経路を選ぶ、そして家から駅までのタクシー、駅から駅までの電車、駅から目的地までのバスという移動を、一括で決済し、さらにスムーズな乗り継ぎを実現するという、複数の手段を組み合わせて最適化したサービスを提供する仕組みです。
2019年10月にはゼンリンはシンガポールで開催された「ITS世界会議2019」に出展し、MaaS分野での取り組みを紹介しました。ゼンリンが持つ店舗等の位置情報、鉄道路線等の経路そして歩行者動線を初めとしたあらゆるネットワーク情報を組み込み、MaaSオペレータ(鉄道・バス・タクシー会社など)が利用できるサービスを構築することで、「移動」の可視化を実現するとしています。
IoT活用事例3、ドローン
今、日本では宅配便トラックなどのドライバー不足が顕著になっています。一方、オンラインショッピングの拡大で、小口の荷物輸送の需要はますます高まっており、物流業界では大きな問題となっています。そんな中、注目を集めているのは、ドローンを活用した集配システムです。もちろん、ドローンの活用は荷物輸送に留まらず、様々な産業への応用も期待されています。
ゼンリンホームページでは、これらについて、「空の産業革命」と掲げられています。もはや、地図は地上だけのものではなくなったのです。空には様々な障害物があります。しかし、ゼンリンは建物・鉄塔・送電線など長年蓄積してきた空間情報も保有しており、この空間情報を3次元化することで、ドローンが安全・安心に飛行できる「空の道」を設定することが可能になるとしています。
【まとめ】
ゼンリンは社会の要望に応えるため、正確で利用価値の高い地図情報を提供していますが、「時空間情報システム」の構築と呼んでいます。地図はもはや、紙の上の単なる記号ではなくなったのです。このような、単なる紙媒体として、平面情報としての地図ではなく、このような新たな地図を製作する業界は今、「ジオ業界」と呼ばれることもあります。
ジオ業界が扱う分野は、上に紹介した3つの新技術のみならず、位置情報ビックデータの解析、エリアマーケティング、VR映像の構築・・・と多岐に渡り、従来の地図製作会社とは全く異なる業種からの参入が多くなっています。地図企業から、ジオ企業へ、業界は今、変革のときを迎えているのです。