時代と共に変化する地図の役割、しかし地図づくりの基本姿勢は不変
地図業界最大手、ゼンリンをご存じですか?最近ではメディアでも大きく取り上げられることもあり、知名度はますますアップしているのではないかと思います。しかし、少し前までは地図と言えば昭文社の道路地図や観光ガイド「まっぷる」シリーズの方が圧倒的に有名だったのではないでしょうか?
というのも、ゼンリンは「住宅地図」と呼ばれる不動産や建設業者むけの地図を専門に製作してきた企業であるため、あまり多くの人の目に触れる機会はありませんでした。しかし、時代の変化と共に、「住宅地図」情報へのニーズが急速に高まっています。ゼンリンの歴史を振り返ると共に、躍進の秘訣に迫ります。
ゼンリンの歴史、ルーツは別府の観光ガイド
現在、福岡県北九州市に本社を構えるゼンリンの創業は1948年、当初は温泉地別府の観光案内などを行う会社でした。観光客向けの小冊子を発行しており、その中の観光地図が今に至るまで脈々と受け継がれているゼンリン地図の原点です。「平和がなければ地図は作れない」という創業者の思いは、戦後の幕開けに相応しく、そして時代に合わせ常に変化してきたゼンリンそのものを表しているのではないかと感じます。
住宅地図制作会社としての地位を確立
当初は観光客向けの地図としてスタートしたものの、その緻密な調査に基づく市街地の地図は、商工会や行政機関に好評をもって迎えられ、ここに住宅地図会社としての「ゼンリン」が確立されることになります。つまり、一般消費者向けでない、「企業対企業」のビジネスモデルを作り上げることに成功しました。1980年には全国47都道府県全てにおいての住宅地図が発行され、全国展開を行う住宅地図製作会社として唯一無二の存在となっています。他者を圧倒的に引き離す強さの秘訣がまずここにあります。
地図の電子化にいち早く着手
住宅地図の全国展開を達成した1980年代には、世の中のIT化への流れにいち早く対応すべく、地図のデジタル化を開始しています。当時の世相を振り返れば、かなりの先行投資という見方も出来ますが、これが功を奏し、この地図データがカーナビに活用されることになります。カーナビ用地図の国内シェアは7割に及びます。それは単に時代の流れに乗っただけではなく、緻密な調査に基づく内容の正確さと圧倒的情報量によっても裏付けされています。(吹)
Googleマップにもゼンリンの地図データを活用
時代はさらに進み、スマートフォンが生活に欠かせないものになりました。同時に、ルート検索・案内アプリケーションの台頭で、紙媒体の地図需要は急激に落ち込んでいますが、ゼンリンはここでも強さを見せつけています。これらアプリケーションの元データとなるGoogleマップにもゼンリンの地図データが利用されています。Googleの他、Yahoo地図にもこのデータは使われています。衛星写真から、世界のどこの地図でも簡単にわかってしまう時代ですが、地上、そして地下を歩くことでしかわからない情報というものがあります。特に日本人の移動に欠かせないバス停や複雑な駅の情報は衛星からでは把握しづらく、Googleの独自データだけではカバーしきれないこともあり、Googleがゼンリンの地図データを「買って」いるのです。
全国1000人の調査員が歩き続けて作り上げた地図
ゼンリンと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、「ゼンリン調査員」ではないでしょうか。メディアでも度々取り上げられていますが、この調査員全国を定期的にくまなく歩いて調査し、地図を作り上げています。自動化・デジタル化が全盛の現代ですが、そんな時代だからこそ、このような地道な調査が改めて注目されているのです。(吹)
変わらぬ地図づくりの手法、目視
創業以来、ゼンリンでは目視を地図づくりの基本としています。つまり、全国を歩き、住宅やビルのその一つ一つをくまなくチェックし、家の表札から店舗の営業時間、階段の段数までをも確認しています。この基本に徹した地図づくりの姿勢は、現代の伊能忠敬とも例えられているほどです。
Googleが独自に地図を作る際には、地上に車を走らせて、全方位カメラで録画することもありますが、基本的には衛星写真や、GPSから発せられる車の位置情報から道路を割り出しています。店舗の情報などは利用者の口コミなどを元にしていることもあり、決して正確とは言い切れない面もあります。
膨大な人件費をかけてまで、正確な地図づくりを行うゼンリン、日本人特有の「繊細さ」や「こだわり」を反映した地図作りの原点がここにあるのです。
プロジェクトXにも紹介された、地図の製作現場
2004年にこの地図づくりの現場がNHKの人気番組、プロジェクトXにて「列島踏破30万人 執念の住宅地図」としても紹介されています。この放送がゼンリンの知名度を一気に押し上げたと言っても過言ではないでしょう。
調査員は雨の日も風の日も、1日6時間ほどを歩き、既存の地図にアップデートを手書きで加えてゆきます。建物の建て替え、ショッピング施設のテナントの入れ替えもチェックし、都市部では地下街に至るまで、歩き回ります。最長でも5年に1度、都市部では毎年調査を行っており、正確でかつ、鮮度の高い地図情報が維持されているのです。
ゼンリンの企業情報
このように伝統と革新を併せ持つゼンリン、今後もさらなる成長が見込めます。最後に投資情報と求人情報を紹介します。気になる株価変動や株主優待は?また、採用ではどのような人物が求められるのでしょうか。
2019年3月にゼンリン株が暴落、真相は?
順風満帆に見えたゼンリンですが、今年3月に株価が暴落するというネガティブなニュースが流れました。一体何が起きたのでしょうか。その真相はゼンリンが地図データを提供しているGoogleマップでの不具合です。道路が正しく表示されない等のトラブルが起きたのです。
さらに、マップ下にこれまで表示されていたゼンリンのライセンス表示が消えてしまったのです。これにより、Googleとゼンリンの契約が解消したのではないかという憶測が飛び交い、2019年3月の終値は3451円と、2月に比べ600円近く落ちたのです。その後、Googleとゼンリンの契約は解消していないと報じられているものの、その後も値を下げており、10月下旬現在では1800円台で推移しています。
ただ、逆に2018年から2019年初頭にかけての過熱が冷め、平常に戻ったという見方も出来るのではないでしょうか。
そもそも収益の柱がGoogle1本ということではないわけで、今後再び値が上がると考えれば、今が買いなのかもしれません。地図データを車の自動運転や、ドローン技術へ活用するなど、新たな事業領域も広がっており、注目の株であることに違いはないでしょう。
株主優待や配当は?
個人投資家にとって、気になるのは株主優待や配当金です。直接、商品を買う機会が少ないですので、どのような優待が受けられるのか調べてみました。ゼンリン公式ホームページによると、200株以上500株未満で2000円相当の商品(一般向けの地図商品など)贈呈、500株以上では、それに加え、「ゼンリンいつもNAVI」の1年間無料使用権が付与されるそうです。
また、2020年度の予想配当金は1株25円となっています。単に株を持っていたいという人にとっては、少し魅力が少ないかもしれません。
ゼンリンの求人情報
日々躍進を遂げているように見えるゼンリンですが、実際に働いている人たちの口コミ情報を参考にすると、大手企業であることを考慮すると、給与は必ずしも満足なものではないようです。やはり、人海戦術による地図作成には相当のコストがかかっているものと推測されます。
また、あまりにも細かい情報までを求めるがために、少なからず作業効率を落としている面もあるようです。とはいえ、福利厚生は充実しており、繁忙期を除いて、休暇の取得も割とスムーズに出来ているようです。新卒採用で入社した場合、まずは現場仕事を任される可能性が高いでしょうから、ある程度地図作成に興味があり、汗水垂らして歩き続けることを厭わないという人の方が向いているのではないでしょうか。
理念にあるように、地図を作ることで世の中に役に立つ、地図を通して世の中への奉仕するという気概のある人が求められているのではないかと思います。
まとめ
地図というと、やはり紙の地図をイメージしがちですが、そのような従来の常識を覆すかのごとく、地図データは様々な分野で活用されています。IT化の進展で、出版業界の不況が叫ばれて久しいですが、ゼンリンは地図の新たなかたちを提案しています。人々が地図を読む機会は圧倒的に減っているかのように感じますが、逆に世の中での需要は増えているのです。今後もゼンリンの躍進から目が離せません。