住宅一戸一戸、ビルのテナントまで全て網羅した住宅地図の秘密
皆さんは住宅地図を見たことがありますか?基本的に法人や行政機関向けの地図ですので、あまり一般の人々の目に触れることはないのかもしれません。しかし、今やネットやアプリからも住宅地図が見れる時代です。住宅地図を一目見れば、あまりの情報量の多さに驚くかもしれません。住宅ならば、そこに住んでいる人の名字まで記載されています。このような地図を果たしてどうやって作るのか、そして個人情報としての問題はないのか。ゼンリン住宅地図を例に詳しく解説します。
住宅地図の作り方
住宅地図は、国土地理院が発行する地形図と異なり、民間企業が作成しています。もちろん、ベースとなるのは地形図ですが、地形図では網羅されていない建物情報、そして、そのテナント、信号機の名前、車線の数まで含めた道路情報など、私たちの生活に欠かせない地上のあらゆる情報を盛り込んでいるのか住宅地図です。住宅地図製作最大手のゼンリンでは、全国約1000人の調査員が、実際に歩いてデータを収集しています。
ゼンリンの歴史
現在、福岡県北九州市に本社を構えるゼンリンの創業は1948年、当初は温泉地別府の観光案内などを行う会社でした。観光客向けのガイドを発行しており、その中の観光地図が今に至るまで脈々と受け継がれているゼンリン地図の原点です。
別府市の観光ガイド「年刊別府」の付録地図には現在の住宅地図と同じく、店舗や目印になるような施設を詳細に掲載しており、「是非うちの店もぜひ載せてほしい」という要望が多く寄せられたとのことです。その後、範囲を拡大し、一軒一軒、一戸一戸の建物名称・居住者名や番地を地図上に詳しく表示した住宅地図として、日本全国のエリアを網羅しています。
変わらぬ地図づくりの手法、目視
創業以来、ゼンリンでは目視を地図づくりの基本としています。つまり、全国を歩き、住宅やビルのその一つ一つをくまなくチェックし、家の表札から店舗の営業時間、階段の段数までをも確認しています。
この基本に徹した地図づくりの姿勢は、現代の伊能忠敬とも例えられているほどです。衛星写真からの情報では、地上のあらゆるデータを収集することは出来ません。膨大な人件費をかけてまで、正確な地図づくりにこだわり抜いているのです。
掲載された居住者情報は個人情報に当たらないのか?
しばしば言われるのは、「ゼンリンは個人情報保護法に違反しているのでは?」ということです。勝手に個人情報を集め、商売にするのはけしからん!といった感情的なところから来ているようですが、ズバリ言ってしまうと、法的には何ら問題はありません。第三者から情報提供の停止を求められたときにそれに応じることを公表し、実際に停止を求められた場合に、それに応じるのであれば、事前の同意は必須ではありません。ゼンリンホームページでは個人情報保護方針として、「保有個人データの開示、訂正等、利用停止等のご請求」として案内しています。掲載事項に不服がある場合は、申し入れることが可能です。
あくまでも表札データのみを記載
個人情報保護法自体に、「承諾がなければ個人情報を利用してはならない」という決まりはありません。そもそも、ゼンリン調査員は公道から見える表札のデータをもとに地図に記載しているだけであり、表札を出しているという時点で、ある程度はその情報の利用に関して容認しているといった解釈がおおよそなのではないでしょうか。
個人情報保護法23条2項には、「本人の求めに応じて第三者への提供を停止することとし、その旨を、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているときは、本人の同意なく第三者提供ができる」とあります。
前述の通り、その表示を地図上から消すように申請することは可能なわけですから、この条項に即して言うと、法的な問題は無いということになります。また、ゼンリン調査員は専用のユニフォームを着ていますので覚えておくと良いでしょう。
残念ながら、ゼンリンを語って自宅や会社等を訪問するトラブルが発生しています。ゼンリン調査員はユニフォームの他、調査員証を携行しています。もし、調査員の名乗る方がやってきた場合は、必ず確認しましょう。
災害時に威力を発揮するゼンリン住宅地図
ゼンリン地図は私たちの生活とは切っては切れない存在になっています。古くから110番・119番通報で人命救助・消化活動などに大きな貢献をしてきました。また、宅配便などで荷物が確実に届くためにも、この地図が活用されています。
東日本大震災を教訓に2013年から、ゼンリンは『災害時支援協定』で同意が得られた日本の各自治体を結んでいます。その協定内容の1つが「地図の備蓄」。全国に1700以上ある地方自治体と協定を結んで、有事の際に必要となる地域の住宅地図5セットを箱におさめて備蓄してもらうというものです。
実感が沸かないかもしれませんが、大規模災害時の救助でまず必要になるのが地図です。
しかし、これまで現場では圧倒的に地図が不足し、救助やボランティアの活動に大きな支障が発生しました。そこで災害用に地図の無償貸与を開始しているのです。もちろんこの地図も定期的に更新が加えられています。
有事の際の安否確認から、救援物資の輸送にまで、近年発生した土砂災害や大火事などでゼンリン住宅地図は既に活躍しているのです。
まとめ
このように、地道な調査で集めた膨大なデータで作られている住宅地図には、どうしても個人情報として載せたくない情報も入ってしまうことがあります。そのような場合は、ゼンリン公式ホームページに掲載されているカスタマーサポートセンターに連絡しましょう。
また、逆に新規オープンしたお店がまだ載っていない、お客さん集めのために是非載せてもらいたいという要望にももちろん応じてくれます。そして、近年日本を襲っている大規模災害にも、ゼンリン地図は大いに役立っています。
大火事や津波で街区が丸ごと消えてしまったとき、頼りになるのは住宅地図だけです。地図に名前を記載するか否かは、皆さんの判断次第、個人情報だからと切り捨てることは簡単ですが、今一度よく考えたほうが良いかもしれません。